ミスドのカフェオレが好き。ストロベリーリングが付いていればなお嬉しい。すっかり疲れてしまった時にはふらりと立ち寄って、買ったばかりの本と一緒にしばらく過ごす。そうしていると、胸いっぱいに幸せが降り積もって、また頑張ろうと思える。これがわたしの、いちばん贅沢な時間の使い方。ひとりきりと言えば何となく寂しい気もするけれど、誰にも邪魔されないと思えば、わたしにはそれでお釣りが来るくらい十分なのだった。このまま家に帰ってしまえば嫌でも孤独を味わえる。けれど、こうやってゆっくりとカフェオレとストロベリーリングに癒やされていれば、少しでも「ひとりぼっち」の時間が短くなるから有り難い。ふんわり漂うカフェオレの香りが心地良い。

「お隣、宜しいですか?」
すっかり自分の世界に浸り込んでいたのを引き戻されてしまって、羞恥心さえ抱きながらも「はい」のひとことで済ませる。と、そこにはわたしのよく知る顔があった。

「驚きました?」
「びっくりしたよ」
「ふふ、大成功ですね」

そう言って無邪気に笑う真昼くんを見ていると、わたしがここに座っている時に感じるそれと似た気持ちになるから不思議だ。わたしが思わず首を傾げてしまったのを、真昼くんはどうやら見逃さなかった。

「どうかしました?」
「ううん、何でもないの」

自分でも分からないのに真昼くんが答えを持っているとは限らない。口にしたものの、釈然としなくてもう一度その言葉を使ってみるけれど、やっぱりどこか物足りない気がする。

「もしかして、ご迷惑でした?」
「ううん、そういうわけじゃないの。むしろ、嬉しいんだと思う」
「わあ!ほんとうに!」

わたしの発した「嬉しい」という言葉に反応した真昼くんが可愛らしく、ころころと笑う。するとわたしの心も、ふわふわした甘くて優しい靄でゆっくりと満たされていく。

「橙子ちゃん、いつもこのお店に来た時には、ストロベリーリングとカフェオレを頼んでいますよね」
「え、どうしてそれを!」
「やっぱり!でも、答えは秘密です」

そうやって、今度は唇に人差し指を当て、悪戯っぽくウィンクしてみせる。やっぱりこれも悪い気はしないのだけれど、わざわざ隠す理由が思い浮かばなくて首を傾げる。何だか今日はこればかりだ。

「秘密なの?」
「はい。橙子ちゃんだから内緒なんです」
「どういうこと?」

よく分からないよ、と返すわたしを相変わらず楽しそうに見つめたあと、とろけそうな瞳をたたえて、どの言葉より優しく言ったのだった。

「僕、ずっと橙子ちゃんを見ていましたから」

* * *