「遠子はよくやってるよ」
「そんなことない。まだ足りないの」
「ううん、俺はよくやってると思う」

まるで小さな子供に言い聞かせるように、優しく言葉を紡いでくれる。奏斗はいつだってそう。何があったのという代わりに、ただ黙って傍にいてくれる。打ちひしがれてしまったわたしに気付いて、責めたりせずに辛抱強く、ただわたしの話を聞いてくれる。それはまるで包帯で傷口を包むように、優しく。

「次はうまく出来るといいな」
「遠子ならやれると思うよ」
「わたしに、できるかな」
「できるよ」

一度うまく出来ないと感じてしまった壁はなかなか打ち破る事ができなくて、どうしようもなく「恐ろしさ」で胸がいっぱいになってしまう。それでも、奏斗がいてくれるなら。傍にいてくれるだけで、また頑張ってみようと思えるから不思議だ。

「奏斗は優しいね」
「そうかな、普通だよ」
「ううん、奏斗は優しい」
「遠子から言われると嬉しいな」

そうやって甘く微笑んでくれる奏斗を見ていると、胸の奥がじいんとして、温かな気持ちで満たされていく。雪が降り積もっていくかのように、しんしんと幸せの音がするのは、やっぱり隣にいるのが奏斗だから。

「わたし、奏斗が大好き」
「俺も、遠子が好きだよ」

こんなにも心が通える気がするのはどうしてだろう。さっきまであんなに切なくてはち切れそうだったのに、大好きのひとことで世界がどんどん色鮮やかになっていく。今度こそうまくいきますように。そう祈りながら、わたしは静かに目を閉じたのだった。

* * *