欲しいものほどわたしの腕からほろほろこぼれていってしまう。今だけだからとうなだれて、ぶうたれて、それから、感傷の真向かい合いに座って、ひたすら仲良くしてみようとする。けれど、ちっとも上手く笑えやしない。だってわたしは振られてしまったんだもの。

「浮かない顔だね。遠子らしくもない」
「なあんだ、奏斗か」
「ずいぶんな言い方じゃないか。八つ当たりならごめんだぞ」
「分かってるよ」

だからひとりで黄昏ていたんじゃない、とはさすがに言えなかった。それこそ本当に怒りの矛先を奏斗の方へ向けてしまいそうだったから。何というか、奏斗は昔からタイミングが悪いのだ。なにもこういう塞ぎ込みたい気分の時にやって来なくても良いのに。それでようやくわたしは自分が苛立っているのだと気が付いた。

「今日もね、まただめだったの」
「うん」
「どれだけ頑張っても届かないんじゃないかって、不安になるの」

強くありたいと、たとえ小さな段差で躓いたとしてもちゃんと立ち上がれるようにしなきゃと、頭では分かっているのに。思うようにならない感情がいつもわたしを悩ませる。どうしてこうなってしまったの、ああ言ってしまったの、と。今度こそは出来るだけ優しくあるように、そうやってめいっぱい勇気を注ぎ込むけれど、あの人はちらりともこちらを見てはくれない。近くにいるはずなのに、途方もなく遠い距離がもどかしい。近づいていく度にどんどん仄暗い深みへと沈んでいく気がする。それが何よりも怖い。痛みに触れていくほどに「好き」が形を変えていくのが耐えられなくて、それ以上の言葉を紡げなくなる。このまま嫌いになりたくない。ずっとずっと好きでいたい。たとえ傷つけられても、諦めずにこの想いを貫き通したい。そんな取り留めのない事をぐるぐると巡らせる。感情をかき混ぜるようにしながら、今だけだからとうなだれて、ぶうたれて、感傷と向かい合わせに座ってみる。だって、わたしは今日もまた振られてしまったんだもの。