彼の瞳は、
私をとりまく、彼と一つになった空気までも映し出しているようだった。






唇が。

彼の唇が、
私の唇に、

軽くふれた。



また、心地の良い匂いに包まれた。

まるで、ゆっくり、なめらかに、

溶けてゆく生チョコみたいだ。



それが上手いこと、私のそれと、調和する。


やわらかく、静かに。




「のりとぉ?」
廊下で、妹の声がする。
妹のいるリビングに顔を出さずに、
まっすぐに私の部屋に来たんだ、とわかった。


チャイムの音もしなかった。

勝手に家に上がって、来たんだ。

妹は、玄関にある靴を見て、智人の気配に気づいたんだ。




私が呆れた顔をして、

「非常識」
と言うと、

「うれしいくせに」

と言って、いたずらっぽく笑って、おでこをくっつけた。


「あま、い」
また、私の声が漏れた。




見つめ合う。









彼の瞳の奥に、









映っていたのは、







まぎれもなく、











私だ。