彼は、よく私に顔を近づける。


その行動は、

私を酔わせようとしているのか、

もっと、他に何かあるのか、

特に意味などないのか、

私にはわからない。




このまま酔っぱらっていたい、
という気持ちがあった。


はっとして、

振り払うように、

勉強机の引き出しを強引に開けて

タバコとライターを取り出し、


一本出して、火をつけ、落ち着かせた。



「おばさんにバレたら、怒られるぞ」

そう言いながらも

窓を開けて、

煙がこもらないようにしてくれた。


彼はしばらく、

タバコを吸っている私を見ていた。

観察するでもなく、

ただ、目元をほころばせて、

幸せそうに見ていた。


机の上に置いてある空のジュースの缶に、

タバコを揉み消して入れ、

さっき母さんが持ってきたマグカップを

口につけて、傾けた。

ぬるくなって、苦味が増していた。


「ねぇ、俺にも吸わせて」

突然、

彼が甘えるように

持っていたタバコの箱を指差した。


「だめ」


私はすぐに、ライターとタバコを引き出しに戻した。

意味もなく反対すると、

「ケチ」

と、むくれた声が返ってきた。

珍しく、ふてくされているようだった。


なんだか少し可哀想で、
「一本、だけね」

そう言って、また引き出しから取り出すと、

彼の顔に、明かりがついたように、

ぱっと、表情が変わった。