私は、あと三回は篠さんに連れられてじゃないと、この場所にはたどりつけないと思った。

 目的の場所のことを小さなビルだと篠さんは言ってはいたが、なんと謙遜ではなかった。

 本当に小さい。
 なんてったって、二階建だ。

 しかも、周りは似たようなビルや、年季の入った店がごちゃごちゃしていて、なんだかもうわけがわからない。

 所謂若者と呼ばれる人種は、服や雑貨を買いにこの辺りに結構来るらしいのだが、私にはそれが信じられなかった。
 これをジェネレーションギャップと言うのだと、篠さんが教えてくれた。
 大きなお世話だ。

 ともかく、くすんだクリーム色の外壁のビルの一階。
 そこが、この喫茶店だった。

 篠さんがここを指定したのには一応理由があり、ここの二階が《篠敬太郎探偵事務所》なのだとか。
 てか、フルネームって。

 篠さんの後について、店の中に入る。
 店員が一人とお客が一人だけいた。

 そのお客が与田里子ちゃんだとわかると、私は声を上げて彼女の席にかけよった。

「ごめんね、遅くなっちゃって」

 里子ちゃんは、まず私の顔を見て少しだけ笑みをこぼした。
 そしてその後すぐ篠さんに視線を移すと、とたんに緊張したように表情を強ばらせた。