よく晴れた、ある日の話
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一日の講義が終わり、慣れた足取りで旧館3階の、突き当たりの部屋へ。
数え切れないほど通ったこの小部屋に、そっと手をかけて深呼吸。
……これが最後。
今日わたしは、この部屋にさよならを告げる。
手首を捻り、ゆっくりとドアを開けた。
「やぁミドリ。また来たんだね」
いつものように、わたしの顔を見て微笑む彼。
この優しい笑顔に、何度胸を踊らされたことか。
「毎日来てくれてありがとう。キミの顔を見ると、本当に癒やされるよ」
葉山教授にそう言ってもらえるのが、この世でわたしひとりだったら。
この言葉が、本当に心からのものだったら。
もし、そうならば、どれだけよかっただろうか。


