「悪い。遅れた」
「よぉ。郁人」
気だるそうに立つ男の人。
この人がイクトさん?
無造作な茶髪に、端正な顔立ち。身長もそれなりにありそう。
とにかく、この人たちが言ったことはホントらしい。
「バックレたな?」
「別に。課長にこき使われただけ」
「何だよ。ノリ悪かったくせに」
私は男性陳の話を聞きながらお酒を口に流した。
お酒を置いて目の前を見ると、誰も居なかったその席にイクトさんが座った。
バチリと目があってしまい、軽く会釈するとイクトさんも頭を小さく下げた。
「郁人ー。お前何飲むー?」
「んー…。ねぇ」
トントン、と机を叩く音がした。
「ねぇ。あんた」
「佳珠奈ちゃんだよ」
斜め前の男性が私に笑いかけた。
「あ…私ですか?」
「そう。あんた。えーっと……カズナ。何飲んでんの?」
「ウーロンハイ」
私はもっているグラスを顔の横に掲げた。

