時計の針も進み、時刻は二十二時半。

その間に来た客は一人だけだった。缶ビールとつまみを買って早々に退店している。

そろそろ深夜番のスタッフが出勤してくる時間だし、引き継ぐレジ金に過不足がないか確認しておくか。

次のスタッフが来るまでに、レジの売上金や釣銭に使用する準備金に誤りがないよう紙幣や小銭の枚数を数えておかねばならないのだ。行動に移そうとした時、佐々木さんが今日何度か腰を叩いては疲れた表情を見せていたことを思い出した。

佐々木さんは四十代後半で未婚だが、婚活の為にお稽古事を始めたことなどを明るく話してくれる気さくなおじさんだ。昨日はお見合いパーティーで知り合った女性と山登りをしてきたと言っていたから、きっと低い姿勢での商品陳列はつらいだろう。遼は店内を見回すと、ゼリーやヨーグルト等の賞味期限をチェックしていた佐々木さんに駆け寄った。

「佐々木さん。もう廃棄確認終わりますよね? そしたら俺と陽平で陳列やっちゃうんで、レジ金のチェックお願いしてもいいですか? 再確認は俺がやりますから声掛けてください」

笑顔でそう告げると佐々木さんは「ありがとう」と言って、レジに向かって行った。小銭の枚数を数える為のコインケースもデスクに用意しておいたので、しゃがむ動作はしなくて済むだろう。

「今日は俺が過不足チェックやりたかった」とぶつぶつ言う陽平を小突き、お菓子やカップラーメンのコーナーを任せて、遼はお弁当やパックジュースのコーナーに手を掛けた。賞味期限が迫っているものが手前に来るよう並べ直していく。

ある程度並べた時点で佐々木さんから声が掛かり、遼の手でもレジ金の枚数を確認した。誤差もなく、安心したところで佐々木さんには早退を勧めた。

定時まで残り二十分程ではあるが、あまりにもつらそうな表情とこれからも強まりそうな雨足を見ると無理はして欲しくないと思ってしまったのだ。

佐々木さんも最初は遠慮をしていたが、遼の「明日も出勤なんでしょう?」という一言に折れてくれたようだった。挨拶を済まし、残りの陳列に取り掛かろうとした時にスナック菓子のコーナーからガタッという破壊音が聞こえた。