「とりあえず、伸びた鼻の下元に戻せよ。それに彦星と織姫って年に一回しか会えないっていうけど、あれって変だと思うんだよ。だってさ、」

「ちょい待った!」

言いかけたところで陽平からストップの手が出される。

「その先は絶対俺のロマンチックな夢を壊す発言が待ってるだろ! 何も言うな! ていうか言わないで!」

バスケットボールやバレーボール経験者と間違われるほどに背が高く、ガタイの良い男が全身で聞くことを拒否している。この様はなんて可笑しいんだろう。

足元は若干内股になっているし、少女漫画のヒロイン気分に浸っているかのような仕草に思わず吹き出してしまった。

「陽平、マジでオカマ目指した方がいいよ」

「だってぇー、遼君がアタシの夢壊そうとするからぁ」

「あ、やばい。なんか寒気してきた。気持ち悪い」

「おいおい、折角ノッてやったのにそういうこと言っちゃう? 可愛いとか言えないの?」

「はいはい、悪かったよ」

「気持ち込もってねぇし…」

「悪かったって。それに…、俺も雨は早く止んで欲しいからな」

遼は外に目を遣るとつきんと痛む胸に手を当て、「まだ痛んで当然だ」と言い聞かせるように数回叩いた。とんとん…とんとん…と。