「ふ…ふ…ふぇっくしょい!!! ぶっ!!!」

自宅のベッドの上で仰向けになりながら、陽平は漫画を読み耽っていた。片手でページを捲っていたのだが、滑った拍子にカバーが外れて漫画の角が鼻に当たって地味に痛い。

鼻の皮が剥けていないことを触って確認したついでに、ベッドサイドに置いていたコーラに手を伸ばした。しかし、持ち上げた缶は既に軽い。立ち上がることすら面倒に感じたが、喉を潤す為にのろのろとキッチンへと向かう。

「何もねえし…」

冷蔵庫を開けると中はすっからかんだった。飲み物が全くないわけではない。一リットルパックの牛乳、母親が水出ししている途中と思われる麦茶、父親用の缶ビールはある。だが、いつも母親に買い置きして欲しいと頼んでいるコーラがなかったのだ。

炭酸飲料独特のシュワッと喉にくる刺激が欲しかったのに。陽平は唇を前に突き出しつつ缶ビールをちらりと見ると、コレでもいいかと一缶拝借した。

ダイニングテーブルに腰掛け、出しっぱなしになっている新聞を広げる。安定する位置を発見し、プルタブに指をかけたところで玄関扉が開く音が。慌てた陽平が思わず投げてしまったビール缶は、見事にゴミ箱にシュートされた。

「あら、陽平? アンタ何でいんの!?」

缶を拾う暇もなく、陽平の母・里美が帰ってきた。両腕いっぱいに抱えた買い物袋から察するに、近所のスーパーで大安売りでもしていたのだろう。

「今朝大学行くって出てったじゃない! まさか…女の子とデートに行こうとしてフラれて戻ってきたとか?」

「ばーか。大学着いたら休講の知らせが出てたんだよ。今日はその講義だけだったし、夕方から雨降るって朝の天気予報で言ってたから帰ってきたの!」

「ああ、あの朝のお天気お姉さん? 可愛いわよねえ」

「お! わかってんじゃん」

「うん。お母さんの若い頃そっくりで」

「どこが?」と思ったが、そんなことを言えば陽平の嫌いなメニューを夕飯に出されそうで唾と一緒に飲み込んだ。