目覚まし時計が七時になる三十分ほど前に鳴り始める。まだ重い瞼を擦りながらも遼はスムーズに停止ボタンに手を掛けた。

朝方まで課題である水彩画の仕上げに取り組んでいた為、睡眠時間は二時間にも満たないが二度寝など出来ない。妹である絵美の弁当を作らねばならないのだ。

洗面所で軽く顔を洗い、冷蔵庫を開ける。昨日バイトが終わってから作った煮物があるし、甘い卵焼きとウィンナーを詰めて…、あとは冷凍食品のほうれんそうのバターソテーでも入れるか。そう考えながら準備を始める。

卵を片手で割り、砂糖を入れてかき混ぜる様は慣れたものだ。同時に朝食にする食パンをトースターにセットすることも忘れない。

「絵美ー! 朝だぞー! 早く起きろー!!」

なかなか起きてこない絵美の部屋に大声で呼び掛ける。一度では起きない絵美に、呼び掛けを二~三度繰り返すのはいつものこと。すると、上下スウェット姿の絵美が携帯電話を片手に起きてきた。

「もう…朝からうるさいよ…」

「起こなくちゃいけないんだから、うるさいくらいでいいんだよ。今日は社会科見学だろ? もうすぐ弁当出来るから包むもの持ってこいよ」

「お母さんは?」

「結局夜勤になったってメール届いてた。今夜は帰って来るよ。ほら、コーヒー。父さんのとこ持って行って」

淹れ立てのコーヒーをマグカップに注いで絵美に渡すと、向かった先には仏壇がひとつ。父親は遼が中学三年生の時に交通事故で亡くなり、その後は都内で看護師として勤務している母が女手ひとつで育ててくれた。

しかし、急な夜勤が入ることも珍しくなく、家事や絵美の面倒は専ら遼の役目だ。

高校進学は諦めて就職をすると言った時、「やりたいことがあるなら、きちんとした場所でその知識を深めなさい」と頭を撫でながら背中を押してくれた母。そして当時まだ小学校四年生だった絵美。その二人を守らねばと心に決め、自分から進んで行なっている。

「あ、お兄ちゃん」

中学校の制服に着替え、頭の高い位置でポニーテールをつくろうとしている絵美が呼ぶ。

「ドット柄のシュシュなら洗面所に置いてあったぞ」

「違うよ! 今日は卵焼き、しょっぱい味にしてね」

遼は聞こえないふりをして、猫の絵柄が可愛らしい布巾で素早く弁当を包んだ。