<<翔 side>>


俺は高校1年生の[田沼 翔]


「翔ー!!!」


美鈴だ!


こいつは中3で知り合った俺の彼女。


「もうすぐ夏休みだな!どっか行くのか? プールか? 海か?」


俺は待ちに待った夏休みに浮かれていた。


なぜなら彼女と過ごすはじめての夏休みだから!


「どこ行くと思う?あててみて!」


うっ… そんな可愛い顔で言われると…


「うーん… 海! 海だろ!!!」


こいつのビキニ姿見てみたいし…


夏と言ったら海だろ!


俺は自信満々に言った。


でも、美鈴は残念そうに首を横に振った。


「私の実家に行くんだよ…?」


実家!?


夏休みに実家!?


「実はね、明後日お祖父ちゃんが誕生日なの。 最近体調悪いって聞いたから、彼氏連れていくって言ったの。旦那さん見るまで死んじゃだめだよって…」


あぁ、なるほど…


だから実家なんだ…


「フリだけでもいいの! 旦那さんになる気なんかなくてもいいから!」


そんなことないに決まってる…


俺だっていつまでもお前と一緒にいたいよ…。


何で俺はこんな大事なことを言葉にできないんだ!!!


「翔…?」


美鈴の怯える声が聞こえる。


どうやら俺は無意識に壁を殴っていたみたいだ…


「ごめん、美鈴…ちょっと考え事してて…」


「大丈夫?」


「あぁ…」


美鈴の顔が少し晴れた。


「俺行くよ、実家」


「本当!?」


「フリじゃなく、本物の旦那としてな!」


「翔…」


美鈴は目から涙をこぼした。


「ったく…バカだな…泣くなよ…」


「だって…翔が私のこと…そんなに考えてくれてるなんて思ってなくて…」


だからって…


そんなに泣かなくても…


俺は、美鈴の涙を指でぬぐう


でも、指だけでは足りなくなってきた。


俺は美鈴を抱き締めた。


俺の胸で好きなだけ泣けばいいと思った。


こんな幸せな涙は流さなきゃ損だからな…