シャキッ


「フロント係のウチヤマです。ご希望のシェービングクリームをお持ちいたしました」


キリッ


「やぁ、ありがとう。助かったよ」


アサノ様は豊かな白髪のあごひげをなぞり苦笑い。


「ああ、これはチップで」


と言って万札を見せられたとき、私はぎょっとしてしまった。


いやいやチップって…多すぎだろう。


「いえ、大変嬉しく存じ上げますが、わたくしどもはチップをお客様からいただかない方針になっておりまして」


「そうなの?何か申し訳ないね」


「いえ、仕事ですからお気になさらず。ほかにもご用件がおありでしたらなんなりと」


「ありがとう」


パタン…


扉が閉まり、


再び


ゼーハーゼーハー……


つ、疲れた…


壁に手を付いていると、


キイ


またも扉が開いて私は驚いた。


「大丈夫かい?もしかして走って届けてくれたのかい?」


「い、いえ!」


うぉ!見られてたっ!!?


そんな私にアサノ様が顔を出し、ミネラルウォーターを手渡してくれる。


「これ。感謝の気持ちには足りないかもしれないが、飲んでくれたまえ」


アサノ様が柔和な顔におっとりと笑顔を浮かべ、





「キャッシュじゃないからチップでもないだろう?



ウチヤマさんに、感謝のしるしだ。



ありがとう」






また



また名前を呼んでくれた。



それに『ありがとう』




こんな私に―――



ここの人たちは冷たいばかりじゃない。




あったかくて




優しい人も居るのだ。