そうめんを嬉しそうにみり龍之介。

遼だったらこんな顔してくれない。


「わたしは今二十歳だ。わたしは下級武士だからたいした身分もなし、親には捨てら

れたようなものだったから、いつも悪さばかりしていたぞ」


「へえ…」

茶屋の恋人の舞さん…いまだに気になるその人…




「…舞はな…」

あっ…よまれた。


龍之介はわたしをみて苦笑した。

龍之介は真剣な面持ちでわたしに話しだした。


「…舞はわたしから惚れたんだ。舞は優しくて愛らしくて…

でも、そんなことだけではない。…舞はわたしを悪の道から

救ってくれた。両親にも見捨てられ、兄弟にもあまりよく思われていなかったわたし

に何も言わず、食べ物をくれ、ただ優しい瞳でみつめて時々、それはあなたの本当の

姿じゃないと言っていた。……舞とは駆け落ちした。舞の両親がわたしのような…

落ちこぼれ、しかも倒幕だの攘夷だのいっている下級武士と関わりがあるだけでも

危険なのに…結婚など許されるはずがなかった。そんなある日…舞に金をためてやっと

買えたかんざしを渡そうと茶屋にむかったんだ…しかし、そこから記憶がない」



龍之介…そんなに舞さんのことを…

舞さんのことを話す時の龍之介は懐かしそうに、楽しそうだった。


わたしが今までみたこともないような素敵な顔で。



「……実をいうと、舞はそなたに似ている」


ドキンッ…

龍之介はわたしの頬に優しく手をあてる。


「そんなわけ…ないでしょう…」

「…わたしを助けてくれた時、舞がわたしをまた救ってくれたのか

と思った。…そなたは顔も性格もそっくりだ」


わたしが舞さんに似ている…?

でも龍之介は舞さんの面影をわたしに重ねているだけよね…


わたしはすごく胸が痛んだ。


「不思議だ…こうしていると、あの頃に戻ったようだ」

龍之介は目を閉じる。


しかし、わたしは頬にあたられた、あたたかい手を払いのけた。

「…舞さんは舞さん。わたしはわたしよ。一緒にしないで」


なんだかまた、龍之介が遠く離れてしまった気がした。