「真里亜、叫んでみたら?」
「なにを?」
裕樹が私にそっと言った言葉は「頑張れ」だった。
「でも、何も言わない方がいいかもしれないし。」
パスッ―――
「トライッ」
「ほらまたカラぶった。言ってみろよ。マネジの言葉も届くんだからさ。」
「でも・・・」
「神野先輩!」
裕樹が仁を呼ぶ。仁の顔が少しだけこちらを向く。
裕樹が私に目で合図をしてくれた。
だから私は、口だけを動かして「が、ん、ば、れ」って言った。
すると仁が少しだけ微笑んでピッチャーに向き直った。
まさか、声を出して頑張れなんて、こんなときに言えないよ。
最初は遊び気分だったから言えたけどね・・・。
今はそんな気持ちになれない。
「その方が結果的によかったかもな。」
こっそり言った裕樹の声は私には聞こえていなかった。
そして・・・
次の瞬間を私は見ていた。
カーンッ―――
仁が、空高くにボールを打ち上げた。
飛距離は、伸びてる。
「神野ー!走れー!」
仁が走る。
そのスピードは今までよりも速いように見えた。
「あの人すげー。」
隣で裕樹が仁のことを感心していた。
ボールはスタンドには入らなかったけど、ぎりぎりで落ちた。
その間に藤井君が3塁ベースを蹴って帰ってくる。
仁も2塁を蹴る。
え、3塁に行くの!?


