「少しお話しがあるのですが。来ていただけますか?」
「はい・・・。」
先生は、パパと私と斉藤さんを違う部屋へ案内してくれた。
ママのことが少し心配だったけど、先生についていった。
「お話というのが、青木さんの事故のことですが。」
青木、それはママの姓だった。
「交通事故はを起こしてここへ運ばれてきました。かなりの重傷で至急皆様をお呼びしたのですが、先程回復されて少し安心はしています。ですが」
先生の口が止まった。
私たち3人は次の言葉を待った。
そして、先生が言った言葉で私の中にあったあの感覚の原因が分かった。
「頭を強打していました。そのため、記憶喪失という可能性があるということを心に置いておいてください。」
「記憶喪失ですか。」
「先程、お嬢さんのことを」
「言わないでください。」
先生の話を割って入った私。
そう、確かにそうだった。
ママは、さっき、私の名前を呼ばなかった。
最初の一言はね「だれ」だったの。
でも、きっと何かの間違いだと思ってたの。
でも、今の先生に言われた言葉でわかってしまった。
ママは、私たちのことを忘れてしまった。
パパのことも。
斉藤さんのことはどうなんだろう。
いとこのことくらいは覚えてるのかな。
「記憶喪失というのは、全部を忘れてしまうということもありますが、一部、一定の期間だけ記憶がなくなっているということもあります。」
「つまり、どこかの記憶がすっぽりなくなっている可能性があると?」
「はい。先程少しですが会話をされる中で感じられたかと思います。」
パパも少し顔をゆがめる。
私の目からはすでに大量の涙があふれ出ていた。


