嫌いになんかなりたくなかったはずだった。
でも、嫌いになるしかなかった。
神野仁という人が、最低な人間に思えたんだ。
時々聞こえてきた女子たちの話し声。
それは神野先輩のこと。
『神野仁先輩ってすごい冷たいらしいね。』
『優しそうなのにね。』
『人間としてどうかしてるのかも。』
『野球しか愛せないみたいだよね。怖い。』
嫌いにならないでくれと何度思っただろうか。
俺の憧れだった先輩のことをそんな風に言わないでくれと何度言おうとしただろうか。
俺にあとどれだけの勇気があったら言えただろう。
俺は小さい人間だ。
大好きだった憧れの先輩がみんなに嫌われていく。
これを神野先輩は望んでいたのだろうか。
でも、それはどうして。
あぁ、もうこんなことを考えることも疲れてきた。
でも、俺が神野先輩を見捨てたら誰が神野先輩をサポートする?
俺だけでも、味方でいないと神野先輩は一人になっちまう。
そう思っていたのに。
ある日の放課後の部活動中、神野先輩に言われた一言で俺は神野先輩のことを完全に嫌いになってしまった。
俺は、本当に小さい人間だ・・・。
『裕樹。』
「はいっ。」
『どうしてお前だけ俺に話しかけてきたりするわけ?』
「え、それは別に・・・ただ先輩に憧れているというか。」
『すげー迷惑』
「え・・・」
『俺、野球以外にいらないって言ったよな。だから、迷惑ってかさ。まぁ、いいけど。あ、このボールそこにしまっといて。』
俺はこの人を一生嫌いなままでいてやると、この時誓った。


