クローン(CLONE)

「そっとしてやれよ。」裕也があゆかに少し強く言う。
俺のことが分かっているのかもしれない。
いつも、暇なときは外しか見ない。
いや、外を見ていることがゆういつの癒しになるのだ。
別にあゆかが悪いことではない。逆にありがたいほどだ。でも、

「ありがとう」としか言いようが無かった

急に天候が変化した。
大雨が途端に降ってきた。
外が見えなくなる。
タクシーのスピードが急に遅くなる。多分前が見えないのだろう。
分かっていたが、聞いてしまった。

「どうしたんですか?」運転手は少し焦っているかのように。

「いや、この雨じゃー、進もうにも進めないんですよね。まえがみえないですし・・・。」俺が想像していた事とまったく同じように答えが返ってきた。
何故か、FMラジオから何か聞こえてくる。進むにつれて音が
大きくなっていく。
「現在関東に、大雨洪水警報が発令されました。」いったい誰が発令したんだ?と一瞬脳の中で疑問に思ったが、そういえば一年前から警報などは、コンピューター管理だ。
多分たまたま、全国ネットワークに繋がったのだろう。
でも、その警報を言った後、電波が途切れたのか、FMラジオから声が聞こえることは無かった。
雲や雨は現状をまったく把握していない。
最近の言葉で言えばKY(空気読めない)。
でも、空気が読めるはずが無いのは、承知だった。
でも、何故かイライラする。外が見えなくて落ち着かないのか良く分からないが・・。
抑えると心臓が痛くなる。
だんだん、タクシーも窮屈になってきた。
このストレスを祐樹やあゆかみたいな関係ない人に当たりたくなかった。
物に当たることもできない。
だから、自然に当たるしかないのだ。
イライラが納まるわけではないが少しは解消することが出来る。