クローン(CLONE)

あの、広島の光景を見ている様だと運転手のおじさんが話してくれた。
俺らも社会の時間にビデオを見たことがある。
あれは、今までの中で一番衝撃が走った、写真や映像だった。
あの光景が実際にこの窓の向こうに見ている。
実際にこんな光景が見れるなんて思っても見なかった。
別にうれしいことでもない。
その間にもタクシーは信号や歩いている人も気にすることなく、赤信号でも、どこへとも無く、カーナビを頼りに、一直線の道を猛スピードで走っている。
俺は夢かと思い、顔をつねったり、目をつぶって、ひと呼吸するが、変わることは無かった。変わることであれば、どんどん人が居なくなっていく街並みくらい。
タクシーの窓を開け、外の風を浴びる。風は途切れる事無く吹いている。
スピードが120キロを軽く超えている。
でも、今は警察が追ってくることは無い。
どこへ行っても、人が少ない、さっきまで、居た人たちはどこへ行ってしまったのだろうか。
この街全体が静けさに包まれている。
でも、この現状を避けることも出来ない。
前日まで、平和だった日本にコピー人間がたった5人現れた事で、こんなにも世界が変わることがあるのだろうか?
今、俺がこの空気を吸った一秒二秒の間にも、日本の人口が絶えなく減っている事は確かだ。
俺もその一人になるかもしれない。
今頃、今までの後悔が溢れ返ってくる。
あの時、もっと遊んでいれば、あの時、塾に行ってなければ、俺は3年の頃から塾へ通っていた。
裕也やあゆかも同じ塾だった。
でも、3人とも成績が良いものではなった。
それだったらあの時もっと遊んで居ればよかった。
そう思う。今、現在になって。
もうその思いも今は虚しく消すしかない。

「大丈夫?」あゆかがさっきまでの事は吹っ切れた事の様に明るく優しく声を掛けてくれた。未だ吹っ切れてはいない事くらい分かる。

「何かあるの?さっきまで外ばかり見ているけど?」