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『HRPDATA 1993年11月』


今、私はそう書かれた大きな棚の前に立っている。


あれから2時間ほどが経過したが、出入り口付近に何度目を向けてもお爺さんの姿は見当たらないままだ。


『戻れない』


お爺さんがどうして一変してそんなことを言い出したのか、ここに来れば何かわかるかと来てみたが、実際得られたのは自分のデータが本当に存在しないということと、身分証明や承諾書がなければ、このデータを見ることはできないという情報だけだった。



何を探しに来たのか懸命にデータの並んだ棚に視線を向けている人々の中、一人佇んでいた。


私は一体ここで何をしているのだろう。


可笑しなことに、自分の存在自体感じられないような感覚に陥っている。


私は今、なぜここに居て、何のためにここにいるのか。


2012年でも同じことを考えたことはある。


その答えは2012年でも未来でも変わらないのに、そこに生まれた苦しみには比較出来ない程大きな差があるように思えた。



『戻れない』



脳裏に過る最悪のシナリオが孤独に拍車をかける。


不意に握りしめていた拳に目を向け、思い出していた。