部屋には二人だけになり、アデルは一度扉を開けて顔だけ外に出した。
周囲に誰もいないことを確認し、エルクが書状を広げているテーブルへと近づいた。
鷹は、エルクの肩の上で大人しく目を閉じている。
小声での会話を可能とするため、アデルはなるべく顔を近付けた。
書状に目を落としていたエルクの眉が、しかめられる。
アデルも視線を落とし、書状の文章をざっと流し読みした。
内容は至って普通。
こちらからも一小隊を増援に送る、といった要旨であった。
「……む」
エルクは唇を撫で、目を閉じる。
イアンとエルクの間には、お互いで通じる暗号のようなものがある。
いや、暗号というには言いすぎかもしれない。
二人の間で交わされる書状の内容は基本的には単純明快。
しかしまれに、用件の他に様々な文や単語が付属されていることがある。
そういった場合は、付属された単語たちから互いの真意を察することになる。
今回が、まさしくそれであった。
