金色の師弟


「失礼致します」

アデルは控えめに扉を叩くと、エルクの返事を待たずに部屋の中へと滑り込む。

あまりのんびりとして、他の兵に見つかるようなことはしたくなかった。

エルクはアデルが入ってきたことに気付くと、眉をしかめわざとらしくため息を吐いた。

「ノックをしたら、返事を待つものじゃないか?」

「お言葉ですが、私もエルク様の私室に向かう姿など見られたくないのですよ」

エルクは愉快そうにくつくつと肩を震わせる。

そのたびに、性格に似て真っ直ぐな黒髪が肩の上で揺れる。
同じく闇のように黒い瞳をアデルに向けると、寝台に掛けていた腰を上げ小さな丸いテーブルへと近づいていく。

王座に座っているときに羽織っている深紅のマントと、白を基調に赤いラインの入った高貴な衣裳に身を包んでいるエルク。

だが、就寝前にまで堅苦しい姿をするつもりなどなく、絹で出来た上品なローブを纏っていた。

テーブルにはグラスが二つ。

まだ開いていない葡萄酒のビンが一本。
そして椅子が二つ用意されていた。