アデルは肩に掛かる黒髪に指を通し、ぐしゃぐしゃと掻き乱す。
決してエルクからの信頼を疎んでいるのではない。
むしろその逆だ。
弟のような存在のエルクに頼られて嬉しくないわけがない。
だが、やはり周囲の目は痛くなるばかりなのだ。
特に、自分より年上の貴族たちからの評価が悪い。
実力で黙らせることが出来るのは正面からの嫌味のみ。
見えないところで囁かれる陰口や、嫉みの籠もった視線はさすがに止めることは出来ない。
「全く……」
しかし、内心で文句を唱えながらも、アデルはそれ程周囲からの視線を気にしているようには見えなかった。
アデルは観念し、エルクの自室へと足を向けた。
すでに夜も遅く、侍女たちも仕事を終え夢の中にいるので、アデルは誰ともすれ違うことなくエルクの部屋まで辿り着く。
城内を巡回している兵たちとも出会わなかったので、アデルは少しだけ安心する。
王の私室に向かう一騎士など、あまり見られていいものではない。
