アデルは王座へと向かったが、そこにエルクはいなかった。
(……となると、自室か)
誰もいない王座の前で、アデルは深いため息を吐いた。
エルクの母親、つまり正妃は彼が一歳の頃に亡くなった。
その後、正妃の代わりにエルクを育てたのがアイリスであった。
王には側室はなく、女性で一番身近であり子育ても経験した者は誰かといったら、アイリスしかいなかった。
それ故に、兄弟のように育ってきたため、エルクは随分とアデルを信頼している。
アデルにとっても可愛い弟のようで慕われるのは嬉しいのだが、あまり重用されると周囲の目が痛い。
一度エルクにそう文句を言ったら、彼は不遜な笑みを浮かべて言った。
『何だ?アデルはそういった周囲の嫉みを実力で黙らせる自信がないのか?』
その言葉には、さすがのアデルも苦笑せざるをえなかった。
そして彼は実際に、黙らせてきた。
