ゆっくりと階段を上がり寝室へと向かう。
どうせ翌日も早いのだから、しっかりと休息を取りたかった。
しかし、そう思うアデルとは反対に、屋敷に足音が近づいてくる。
気付いたアデルは足を止め、振り返った。
すると、誰かが扉を二回ノックする。
「アデル隊長、いらっしゃいますか?」
はきはきとした声に呼ばれ、アデルは一度ため息を吐くとしぶしぶ階段を降り始めた。
「入っていいぞ。何事だ」
呆れた声を扉に飛ばすと、「はい」という返事の後に扉が開いた。
そこにいたのはアデルの小隊の一人で、最近志願兵試験を通り騎士になった十五歳の少年、ルークだった。
短い黒髪を揺らしながら頭を下げ、あどけない瞳で窺うようにアデルを見上げる。
「おやすみの最中だったでしょうか……?」
「いや、大丈夫だ。ところで、どうした?」
優しい声で答えるアデルに安心し、ルークは強ばっていた顔に笑みを浮かべた。
