アデルは上げていた顔を戻すと階段を上り始めた。
(……きっとこの絵の作者は、激しく母を愛したのだろうな)
それは、アデルの推測であり確信だった。
直接ぶつけられなかった想いを、絵にぶつけたのだろう。
アデルは、自分の父親を知らない。
騎士として王に仕えたアイリスは、縁談を全て断った。
誰もがヤーデ本家の血を途絶えさせるのだと思ったのだ。
しかし、ある日突然アイリスの妊娠が発覚した。
相手は不明。
専らの噂では、他国の騎士ではないかと言われている。
王に対する厚い忠義と、国を愛する心。
そして、他国の愛する男。
その二つを天秤に掛け、アイリスは忠義を取った。
そして一夜の思い出に、と産まれた子供がアデル。
これが一番有名な噂だが、アデルにも真実はわからなかった。
絵を見つめる母の穏やかで寂しげな瞳を思い出す。
絵の作者は、名前も知らない自分の父親。
アデルは何故かそんな気がしていた。
