富や名声を愛すヤーデの人間たちはアイリスの業績を誉め讃えた。
だが、彼女はそんなものなど欝陶しいとでも言うかのように、真っ直ぐに王を守り続けた。
早く家柄のよい貴族と結婚し、跡取りを産めと急かす声も聞かず、アイリスはただ剣を振るい続けた。
そんなアイリスの姿に、王は絶大なる信頼を置き、彼女も王を敬愛していたという。
屋敷へ入るとアデルは髪を結っていた紐を解く。
ぱさり、と音がしそうな程にクセのない黒髪が肩に落ちた。
アデルは母親の残した屋敷の中で、階段上に飾られている一枚の絵を見上げた。
大の男が両手を広げたくらいの大きさの絵には、美しい金髪を風になびかせ荒野に立ち、凛々しく光る金の瞳で剣を掲げる女性が描かれている。
本物よりも美しく描かれた母親の姿に、アデルは苦笑を零した。
この絵は、前王が亡くなった年に届けられた絵だった。
送り主も、画家も不明な絵だったが、アイリスは贈られてきた絵を見てしっかりと微笑んだ。
幼い頃に見上げた泣きそうな笑顔を、アデルは今でも覚えている。
