ジョシュアは深く頭を下げると、執務室から出ていくために扉へと足を進めた。
ふと、音もなくジョシュアの足が止まり、アデルを振り返った。
ぼんやりと光る紅の瞳が、微かに細められた。
「貴方は戦争を止めたいと考えておいでなのですよね?」
「あぁ」
座ったまま頷くアデルに、ジョシュアは意地の悪い笑みを向けた。
「そのためならば、エルク様に背いても構わない、と?」
動揺を僅かに眉を動かす程度に留め、アデルはジョシュアを見つめる。
自身の銀髪を指先で弄ぶ姿は、思わず目を奪われる程に様になっている。
「答えなくてもいいですよ。ただ私が気になるのは、メルディの少女のことです」
緩く口元に弧を描くと、ジョシュアは悪戯に微笑んだ。
「彼女がいなかったら、貴方は同じ行動に出たでしょうかね?」
からかいと、僅かな非難。
ジョシュアの複雑な心境が露わになった問い掛けに、アデルは目を伏せる。
