「私が砦を出たのは三日前で、シェーダ軍が攻めてきたのは五日前のことです」

ノルダ砦と王都は、普通に進んで六日の距離。
馬を走らせ、休む間も惜しんでユリアはここまでやってきたのだ。

「五日前だと……!?それでは二日でノルダ砦を落としたのか!」

小隊長の一人が怒鳴りながら立ち上がる。
怒気を露わにした男の声に、ユリアは俯いた。

「落ち着くんだ」

暖かくも鋭い声が、会議室を切り裂いた。
会議室の視線が一斉に、濃紺の髪をした若き王へと向けられる。
険しい目元を一転させ、イアンは笑みを浮かべた。
続けて、と視線で促されたユリアは深呼吸ののちにそっと言葉を吐き出した。

「……二日ではありません、一日です」

騒めきが波紋のように室内に広まる。
難攻不落の砦が、一日で陥落した。
誰もが信じられずに言葉を失う中、ただ一人、ライラだけが場違いな笑みを浮かべて頷いていた。

「指揮官はアデルか?……流石、というべきか」

砦が落とされたというのに笑みを浮かべるライラの不謹慎な態度が、大臣や小隊長たちを苛立たせた。