言葉を失ったのは、門番たちも同じだった。

「……そんな馬鹿な……」

門番の唇から零れた声に、ユリアは大きく首を振る。
それが、門番に対する否定であることは言葉にせずともわかる。

「なら、今ノルダ砦はドルネアの手にあるということ……?」

ルイはユリアに不安を与えないよう、気丈な態度を振る舞い尋ねた。
ノルダ砦は、テルーベ大河を渡るドルネア軍を監視し防衛する砦。
その機能が失われれば、そこからドルネアがなだれ込むことは容易に想像出来た。

ユリアは弱々しく首を振る。
ノルダ砦はドルネアの手に落ちたのではない、と。

「ノルダ砦を落としたのは、シェーダ国」

再び訪れた衝撃は、先程の比ではなかった。
ルイも門番も呼吸を忘れ、目を見開いた。
全員の視線を受けたユリアは、俯いたまま、肩を震わせ泣きだした。

「指揮官は……闇のような黒髪と、光を放つ金色の弓を手にした……」

小さな声だったが、身体を寄せていたルイの耳にははっきりと届いた。

「−−……『金色の風』」

ノルダ砦陥落より、シェーダ軍侵攻よりも、ルイを打ち砕いた事実。

「嘘……」

アデルが、敵。
祖国に弓を引くのは、最愛の、彼。