手の空いたルイは弦を外した弓を手に、馬小屋へと足を向けた。
馬小屋には個人の馬もいれば、メルディ軍なら誰でも自由に乗ることの出来る馬もいる。
ルイは馬に乗ることを得意としていないため、自分の馬は持っていない。
移動手段としてなら乗れるものの、馬上から弓を射るように攻撃もするとなると出来ないのだ。
(アデルさんなら出来そうね……)
むしろ、出来ないことがなさそうなアデルの不敵な笑みを思い出す。
次に会ったときには教えてもらおうと心を決め、ルイは馬小屋の中へと入った。
「おはよう。朝早いのね」
ルイは手近な馬の頭を撫でる。
艶やかで闇のような深い黒馬は、聡明な茶色の瞳を細めルイに顔を寄せた。
美しい黒に、ルイはついアデルを思い出し苦笑した。
「アデルさんのことばかり考えてるみたい」
苦笑するルイを気にせず、黒馬は嬉しそうにルイに頬摺りをした。
賢そうな顔立ちに、艶やかな毛並み。
一段と深い色をした尾を風になびかせ、しなやかな肢体を持つ立派な黒馬は、イアンの愛馬である。
