金色の師弟


ノルダ砦以外にも、テルーベ大河沿いには拠点が点々としている。
過去にも何度かテルーベ大河を越えようとしたが成功した記録はない。

三十年程前には、警備の手薄だったシェーダ国東の海にわざわざ回り込み侵攻を試みたという話がある。
しかしこれは金色の弓を手にしシェーダ軍を率いた、当時シェーダ国第三王子であったザカルドによって、失敗に終わっていた。

だから、ライラが懸念しているのは川や海からの侵攻ではない。
同じ陸からの、挟み撃ちだ。

「……シェーダ国が、侵攻してくるという可能性も考えられる」

「馬鹿な!」

ライラの推測に、イアンは冷静さを失い力強く机に拳を叩きつけた。
怒りに近い瞳を向けられ、ライラは眉をしかめる。

「可能性だ。考える余地はあるし、ないとは言わせない」

「理由がない」

「いや、ある」

断言したライラは、哀しげに目を伏せた。

「……ミーナ姫が、貴方を選んだ」

「……!」

後頭部を思い切り殴られたような衝撃が、イアンを襲う。
ライラは、目を合わせない。
考えすぎだと、思いたい。