ルイには見えない微笑みを浮かべ、アデルは優しいテノールで囁く。
「近々、会議も終わり俺たちは祖国に帰らねばならない」
考えずにいた事実に、ルイはぴくりと肩を震わせた。
これほどまでに長く近くにいたことは今までにない。
物理的にも、心理的にも。
この幸せな時間の終わりが近づいているということから、ルイは目を逸らしていた。
「……そう、ですね」
落胆を隠し切れないルイの声に、アデルは優しくルイの頭を撫でた。
「そう落ち込むことじゃないだろう?これからは、今までのように時々顔を合わせて、俺がお前を指導する関係に戻るんだからな」
永遠の別れではない。
そう告げるアデルの声は、力強く凛々しい。
それが、ルイには不安だった。
離れたくないと、言ってほしかった。
アデル得意の嘘でもいいから。
アデルはルイの頭を離すと、ルイを見上げて苦笑を浮かべた。
「淋しくないわけではないんだがな」
幼子をあやすような優しい声音に、ルイは顔を赤くして俯いた。
言葉に縋りたくなる不安な気持ちは、アデルに見破られていたらしい。
