時間の流れを感じながら、アデルは前王譲りの美しい黒髪を梳きながらエルクの頭を撫でる。
何も言わずに傍にいてくれるアデルに、エルクは益々涙を流した。
自分の弱さが情けなく、失恋の悲しさから流していた涙はいつのまにか、自分自身の腑甲斐なさへと理由を変えていった、
(俺がこうして頼り続ける限り、アデルは俺から離れられないじゃないか……)
エルクはアデルの恋心を、知っている。
相手がイアンの近衛兵であることも。
だからアデルは、どこか距離を置きながら彼女に接している。
それが全て自分のためだということを、エルクはよく理解していた。
少し前までのアデルなら、きっとエルクに何かしらの慰めの言葉を掛けたことだろう。
だが、アデルは何も言わずにただエルクを抱き締める。
胸を痛めて、何も言えないのだ。
