薄々感付いていながらも、アデルは深い笑みを讃えてエルクの言葉を待つ。
話したくないのならそれでいい。
無理に話を聞き出そうとは思っていない。
ただエルクが望むなら力になりたいだけなのだ。
エルクは唇を噛んで押し黙る。
何でもないと言わない限り、アデルはエルクの前を動かない。
何も言わないということは、エルクなりの救難信号だ。
ここにいてほしいと言っているのだ。
エルクが俯いたまま、アデルへと手を伸ばす。
震える手が、力なくアデル腕を掴んだ。
捕まれているという感覚も感じられない程度の力に、アデルは息を呑んだ。
このタイミングでエルクが大きく落ち込むことと言えば、ミーナがデモンドの王弟を婿に迎えると決めるか、ミーナとイアンが婚姻を結ぶかのどちらかだとアデルは読んでいた。
そして、それが事実ならエルクに与える打撃は大きいだろう。
立ち直れないかもしれない。
それでも、アデルはエルクなら大丈夫だと信じている。
エルクならば、どのような痛みであっても乗り越えられるだろうと。
