年上の余裕か、師匠の余裕か。
どちらにせよ、アデルに比べればライラなどまだまだガキであった。
いくら頭が回ろうと、ライラはまだ策士にはなれない。
「アデルさん……?」
不安げなルイの呼び声で、アデルはライラから顔を離し振り返った。
そこにはライラに向けた挑発的な笑みなどなく、自然な笑顔が浮かべられていた。
(変わり身が早い……)
ライラは内心で毒づいてから、考え直す。
(……いや、これが本音か)
アデル自身も感付いてはいると思うが、アデルがルイに向ける笑顔は他とは違う。
ルイに対しては、意識せずとも柔らかで好意的な笑みが浮かぶのだ。
アデルの微笑にルイも安心した様子で頬を緩める。
「今夜は空いています。ご指導のほど、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げられ、アデルは苦笑した。
「礼などいらんぞ。俺が教えたくて教えるんだ」
「私はそれに助けられているんです」
顔を上げて、目を細めて笑うルイ。
アデルは幸せそうに、その笑顔を見つめていた。
