ルイが逃げるために放った言葉には何も意味はなかった。
抱き締められてしまっては、アデルの表情は窺えない。
ルイは今にも泣きだしそうで、ぐしゃぐしゃに歪んだ顔をしながら、声を絞りだす。
「私は……イアン様のために……だから、私の居場所はあそこです……」
「知ってる」
「駄目です……行けません」
「わかってる。お前の気持ちなんか、わかってるんだ」
アデルは眉根を寄せ、腕の力を強めた。
本当に自分は狡賢い人間だ。
何もいらない。
そう言いながらもアデルは言った。
シェーダに来てほしい、と。
自分が行くとは、言えなかった。
アデルもまた、エルクだけは手放せられないのだ。
