だからこそ、アデルの記憶に残るということは通常ありえない。
彼の心は、この世のどこにも留まらないはずだったのだから。
折角の祝宴だったが、アデルは興味を持てなかった。
港町からのお礼の気持ちを無下にするつもりもないので、しばらくはアデルも振る舞われた料理や酒を味わっていた。
しかし、いい加減飽きてくる。
酔いが回ったから風に当たりたい。
そのようなことを言い訳に、アデルは宿を抜け出した。
明かりにぼんやりと照らされた夜の町を、目的もなくふらふらと歩く。
冷たい風が頬を撫で、心地よい。
実際に酔いが回っていたのか。
微かに熱を帯びた身体を冷やしながら、アデルの耳は微かな風切り音を捉えた。
