ルイの射を初めて見たとき、アデルは特に何も感じなかった。
本人の望む望まざるにかかわらず、《漆黒の風》と名が知れ渡るような弓使い。
一本でも射を目にすれば、射手の実力は手に取るようにわかる。
さらに、経験や癖、欠点も見抜く。
アデルにとってそれは当然のこと。
生きるために呼吸をするのと、寸分違わず当たり前にアデルは他人の実力を見抜く。
特に何も感じなかった。
なのに、覚えている。
海賊討伐を終え、被害を受けていた港町で細やかな祝宴が催された。
宿泊させてもらった宿で町の特産品、海産物をふんだんに使った手料理がご馳走として振る舞われた。
美味しかったとは記憶しているが、あまり記憶には残っていない。
そう、アデルはそのように生きてきた。
《漆黒の風》とはまさしくその通り。
彼は何にも心を残さない。
風が吹いたことに気付かぬ者はいない。
同じように、アデルの存在感は圧倒的だ。
だが、気が付けば見失う。
まるで、風のように消えていく。
