弓兵部隊、そして歩兵達を掻い潜り接近した一人の賊が、アデルの背後で斧を振り上げた。
「終わりだぁ!!」
のぶとい叫び声に、アデルははっと振り返る。
だが、アデルの手に矢はなく、今からつがえても間に合わない。
普段ならば、大振りで荒い賊の一撃など、至近距離でも避けられる。
だが、今、アデルの足はぬかるみに取られ、思うような動きが出来ずにいた。
(多少の傷は覚悟して……)
アデルは懐に忍ばせた短刀に手を伸ばす。
致命傷をかわし、急所に短刀を突き立てるつもりだった。
しかし、彼の最も近くで弓を引いていた愛弟子は、賊の攻撃を許さない。
「アデルさん!」
敵の接近に、振り返ったルイが叫ぶ。
そして、威嚇射撃につがえた矢で賊に狙いを付けた。
標的を射ぬくルイの瞳には、激しい怒りの感情が渦巻いていた。
