「言ったはずだ。クトラという男は気が合いそうにない」
端的な言葉は、まるで嫌われているようでもある。
アデルは、ライラがルイに好意を抱いていることには気付いている。
だから、自分がライラに嫌われていようが、ショックは受けなかった。
むしろ、大人びてるライラの子供じみた一面に、アデルは安心する。
出会ってから、ライラの頭脳には驚かされてばかりなのだ。
十も年下なのに、鋭い洞察力と知識を兼ね備えた末恐ろしい少年である。
こんな軍師相手には戦いたくないと、アデルは思う。
それ以上の会話はなく、アデルは前衛と付かず離れずの距離を保つ。
「……クトラの奴、やけに速くないか?」
「確かに。雨の中だから普段よりも足取りは重くなるはずだが」
独り言のつもりだったアデルの呟きに、ライラの返答があった。
ライラは腰に下げたポーチから、小さな望遠鏡を取出し覗く。
雨に視界を奪われる中、それ程の活躍は期待出来ないが、裸眼よりは前衛の様子を確認出来た。
「特に隊列が乱れた様子もない」
「……そうか」
眉をひそめ、アデルは辺りを見渡す。
そろそろ、偵察隊の報告にあった、山賊たちが山中へと消えた地点に差し掛かるのだ。
