昨晩まで星空が輝いていた空は、今朝になり分厚い雲に覆われ、瞬く間に雨を降らせた。
それは、ライラの予想通りでもあり、今回の任務を厄介なものにする。
出発した時は小降りだった雨も、山道を上るにつれて強さを増していった。
「雨の勢いに負けるなよ!」
「はい!」
先頭を歩くアデルが振り返り励ませば、続く隊員たちは声を張り上げた。
視界も悪く、足元もぬかるみ歩きづらい。
そのうえ、身体に叩きつけられる雨粒が、隊員の体力を奪っていく。
それでも、雨に負けてしまっては、山賊と戦うことは出来ない。
アデルは前方を進む部隊と距離が開きすぎぬよう気遣いながら、隊を進めていった。
二つの部隊が並んでいれば、敵は先に弓兵で固められた後衛を狙うだろう。
だから、後衛の中には弓兵でない者たちも混ぜ、敵を引き付ける囮となる。
そして前衛部隊が引き返し、挟み撃ちにして賊を討つ。
それが、アデルとライラによって考案された作戦であった。
アデルはフードを深々と被り隣を歩くライラに声を掛けた。
「わざわざ囮となりこちらにいる必要はないんじゃないか?」
目深に被ったフードから、ライラはちらりと深緑の瞳をアデルに向け、すぐに視線を前に戻す。
