『外を歩いてると、死んでる人って一人もいないでしょう?』

輪子ママが亡くなってから、しばらく経ったある日。

一緒に外を歩きながら、唐突に輪子が言った。

『それを見るとね、ホッとするの。傍目ではわからないけど、

たった今こうやって外を普通に歩けてる人達って、例えばなにかしらの病気を

持っていても、

大きな意味ではみんな、健康で…生きてるんだって事でしょう?』

『うん。そう言われてみれば、ほんとにそうだね』

『それがこんなに綺麗だなんて、私知らなかったよ』

綺麗。

生きて、普通にただ歩いている人間を、輪子は「綺麗」だと言った。

綺麗な顔で笑いながら、確かめるように言っていた。

(そうだ。輪子を外に連れ出そう。ピクニックしよう。)

「うわ。外むっちゃいい天気だなー」

カーテンを開けながら、幸太がつぶやくのを聞いて、あたしは突然決心した。

輪子を、ちょっとでも笑顔にしたい。ホッとさせてあげたい。

あたしに出来ることは、なんだってしよう。そう思いながら。