まるで私の肌の一部になったかのように、終始そっと存在感を消したまま

静かにそばにいてくれた。

…お母さん。

なんで、何十年も住んでいた家の階段を踏み外したりしたの?

なんで、ご丁寧に階段の上から下まで滑り落ちちゃったの?

なんで。

なんで、あの夜私に、クッキーなんか持って来ようとしたの?

私。

もう一生、クッキーなんか食べない。

絶対に、食べない。

毎朝、毎晩、仏壇の前に正座して、りんを鳴らし、線香をつけるお父さん。

しゃんと伸びた背筋は、私から見ても痛々しく、淋しい。

私達、突然二人きりになってしまったね。

「輪子。爪切りどこか、知ってるか?」

爪切りのある場所さえも、知らずに生きてきたお父さん。

黙って渡すと、ありがとう、と小さな声で言った。