とりあえず、車内に戻った。

発車まで、あとどれくらいだ?焦りながら一番手前にいた昭彦に弁当をまとめて渡すと

「あの人、誰?兄ちゃんの彼女?」

ニヤリとしながら聞かれたが、答える余裕もなくホームにまた駆け出した。

向かい合うと憧子は、少し照れたようにわずかに身をよじらせ

「久しぶりだよね」

と、言った。

「うん。久しぶり」

「…元気だった?」

「うん」

「ずっと、連絡返さなくてごめんね」

「…うん」

「今日もね、ほんとは来ようかどうか迷ったんだ」

「うん。…あ、いや、…そうか」

ろくに喋れない。気が急くばかりで、ちっとも言葉が出ない。

せっかく、会えたんだ。

せっかく、会いに来てくれたんだ。

今きちんと気持ちを伝えなければ、俺と彼女を繋いでいる最後の何かがほどけてしまう。

引っ越すことを彼女に知られたあの日、初めて現実を実感したように、

今度はそんなことを、今さらになってようやく実感した。

ドンドン窓を叩く音に振り向くと、昭彦が左手を広げ右手の人差し指を立てていた。

その意味に気づいたとたん、俺は憧子の腕を思い切り引き寄せていた。

残り、あと、六分。