朝、いつもより早く目が覚めた。

よりによって、親父の出勤時間にかち合ったらしい。

トイレに行く途中で、顔を合わせてしまった。

母親は、まるで何事もない日のように、親父のバッグを手にして

親父のそばに立っている。

こんな風景は久しぶりに見た。しかし、どうでもいいことだ、もう。

黙って通り過ぎようとしたら親父に名を呼ばれた。

いつの間にか俺の方が背が高くなっていることに気づいた。

このところ、母親の体調や顔色ばかり心配していたので全く気がつかなかったが

親父の顔は幾分老けたようだった。目の下には、疲れが袋になってぶら下がっている。

「頼んだぞ」

老けてくたびれたその男が、唐突に、しかし力強く言った。

「---」

俺は、何も言えなかった。言う気もなかった。

何を今さら。そう笑い飛ばそうが

何を託す気だ。そう怒りを露わにしようが

全て無意味だ。そう思ったから。


何も答えない俺からやがて視線を外し、父親は玄関へ向かった。

母親が、その背を追いかける。

微かに聞こえてくる会話を背に、俺はトイレに入った。


そうして今日、俺の家は終わった。