「あっ、憧子お帰り!今日は苺の退院祝いでご馳走よ」

「おっかえり~憧子ちん!ただいまぁー★」

「………おかえり、ママ。……私、ご飯いらない」

「「え?」」

ハモる二人の声を背中で聞きながら、私はさっさと二階にあがりドアに鍵をかけた。

制服を着替える気力もなくて、そのままドサリとベッドに倒れこむと、

間もなく、ドアの向こうからママの声。

「憧子ちん…?どうしたの?学校で、なんかあったの?」

「なんでもない…ちょっと…ほっといて、ママ」

「………」

まだ、気配がする。私は言葉を加えた。

「ちょっと、疲れただけだから…心配しないで」

「そんな…心配だよう!!風邪ひいた?それならお薬飲むのにご飯…」

「いいから!お願い、ほっといてってば!!」

ああ。

嫌だもう、私。

どうしてママには、こんなふうに言っちゃうんだろ。完璧、やつあたり…

「…輪子なら、いい?」

ーーえ?

「輪子ちんになら、言える?かな?…後でさ、聞いてもらうといいよ。

一人で考えてるよりさ、スッとするよ、きっと」

私はベッドから起き上がり、じっと木目のドアを見つめた。

何も言えずにいると、やがてトントンと階段を下りていく音が聞こえた。