輪子が私の入院道具と一緒に持ってきていた布の絵本をめくりながら苺子が

嬉しそうに声を出して読んでいる。

「ねぇねぇ、輪子ちん。憧子ってあたしになんか冷たくなぁいー?」

未だにあたしが上手に剥けないリンゴを、スルスル器用に剥きながら輪子は笑った。

「ていうか、何かあった時とかさ、あたしじゃなくて輪子ちんにばっかお話するしさ」

それはずいぶん前からの、あたしの不満、だった。

ちょっとした、ヤキモチでもあった。

「本当の親には言いにくいことってあるんだよ、きっと」

「うーー…あたしじゃ頼りにならないってのも、あるんじゃないかなぁ」

「そりゃあるわよ」

輪子ちん、ヒドい。

スルスルスルスル。きれいに剥かれていくリンゴが、輪子がかけた魔法のように回る。

「でも、憧子、泣いてた」

「え?」

「苺が倒れて。あの子があんな声で泣くところ、私今まで見たことなかったよ」

「……」

ほどなく戻ってきた憧子。相変わらずのすました顔で椅子に座った。

泣いたんだ…。

この、いつでも素っ気なくって、無愛想で、あたしのことなんて

ちーっとも気に留めてないよーな、この子が。

「何、じろじろ見てんの?」

怪訝そうに言うその顔を、それでもあたしは驚きと、ある種のショックで

ずいぶん長く見つめてしまった。