花の香り漂う野原のなか、俺はそこに寝転がっていた。
春ということもあり、あまり強くない日射しはどこか心地がよい。
今日は4月7日。
中学を卒業した俺は本当なら今頃高校の入学式にいるはずだった。
なんで出ていないのか?
こんなとこにいるのか?
それには深い理由がある。
実は―――
「おい少年。ここからはあたしの領地なんだけど」
突然割り込んできた声。
誰だよ、俺の語りを邪魔するやつは。
まだ自己紹介もしてないし、ここからがいいところだってーのに。
そして、ここは誰の場所でもないんだぞ。
「少年、今言ったことが聞こえなかったのか?嫌っていうんなら、力ずくでも従わせる」
ガキ大将かよ。
頭上から降り注いだ低い声に、嫌々ながらも閉じていた目を開けた。
視界に飛び込んできたのはセーラー服を身に纏った女の子だった。
女の子?
声のイメージからしたらハスキーなイケメン男性。
そんな感じだったんだけどな。
逆光で上手く顔は見えないが、華奢な体型からいって女の子であることは間違いなさそうだった。
それにこの制服は俺の学校と同じものだ。
さっきまであった微かな怒りもいつの間にか無くなっていた。
同じ学校というだけで親近感が沸いてくるものだから、不思議なもんだ。
「その制服の学校って今日入学式だよな?なんで君はこんなとこにいるの?」
「…入学式?そういえば今日だったな。だけどあたしは不良なんだからサボりに決まってるだろう」
突然の質問に平然と女の子は答えた。
「そっか……。不良か…って、ええっ?」
思いがけない言葉に一気に青ざめた。
不良って……。
不良ごときでなにビビってんの?と多くの方は思うだろう。
けど、怖いことは断じて嫌なんだ。
頭に引っ掛かった記憶の一部を引っ張り出す。
『この学校の不良って、ヤバいらしいよ。なんでも、拳銃やら刀やら振り回すんだって』
『け拳銃!?』
『そう、危ないでしょ?だから、絡まれたら真っ先に逃げるんだよ』